「世界を世界に説明する」の今までとこれから

kenishida
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個人的な話になってしまいますが、「なんで会社をやってるんですか?」とか「次なにやるんですか」と聞かれることが多く、社内でも「なんで大学院に行ってたのに、会社やってるんですか」と聞かれたことがあったので、ちゃんと自分の考えをテキストに残しておこうと思って、記事を書いてみます。

スタートアップはマイルドなカルト

そもそも前提として、スタートアップはPeter Thileによれば「マイルドなカルト」なわけです。カルトがカルトであるためには、当然ながら教典が必要になり、その教典の良し悪しが、カルトの共振性、あるいは狂信性を定義づけるわけです。

僕自身の性格として、あまり思ってもいない教典を叫ぶことは出来ないので、例えば市場が伸びているとか技術革新や法改正によって新しい市場が急速に立ち上がるといった外的要因は、あまり教典に反映されません。

では、一体どのようにしてマイナースタジオの教典、つまり「世界を世界に説明する」というミッションが生まれたのでしょうか。

世界を世界に説明する

もともと、「世界を世界に説明する」は、フランスの歴史家であるリュシアン・フェーヴルから借りてきた言葉です。フェーブルは、16世紀フランスを専門とする歴史家であり、アナール学派という1つの潮流の創設者として知られています。

彼の研究自体も面白いのですが、高校生か大学生の頃に、この言葉を知った僕は「歴史学によって世界を世界に説明するだなんて、なんてかっこいいんだ!」と思ったわけです。人文学がなんのためにあるのかが問いただされている現在ですが、少なくとも「世の中のことを世の中に説明する」というのは、ア・プリオリに価値があると思っているわけです。

社会との溝

そんなわけで、世界を世界に説明することに関心を持って歴史学者を目指していた僕ですが、一方で社会との溝が大きいことに漠然とした問題意識も持っていました。大学院に行き、歴史や政治哲学を引き続き学んでいたわけですが、一方で、自分が面白いと思うものに社会がそれほど価値を見出していないことに、違和感も抱えていました。

まあ歴史というのは、いわば基礎研究なので、別にいまの時代に評価されなくても良いとも言えます。経済を勉強する人も政治を勉強する人も、物理や化学をやる人も、基本的にはみな「◯◯史」には触れるため、歴史に意味がないなんてことはないどころか、みんなが歴史をやっているとすら言えるのです。

ただし、そこに国からの予算がついて、社会のリソースを投下して研究をするとなると、もう少し学問としての歴史学の必要性・妥当性が明示できると良いなあとか思っていたわけです。

ニュースと専門知の架橋

そんなとき、たまたま自分の書いていたブログが話題になりました。それは当時、THE NEW CLASSICと呼ばれていたもので、自分が大学時代に主宰していた自主ゼミの名前からとったタイトルでした。新しい人文学・社会科学のあり方を古典を通じて学ぼう、という意味でNEW CLASSICという名称だったわけですが、そこでの学びや歴史に関するトピックを書いていたのです。(ちなみに、いまはTHE HEADLINEとして残存しています。)

そのTHE NEW CLASSICに、2014年頃にウクライナについての記事を書いたことがきっかけでした。当時のウクライナでは後の紛争につながるデモが起きており、世界からは大きな注目を集めていました。しかしその注目に比して、日本国内では「そもそもウクライナってどこ?」というレベルで、まともな記事が非常に少なかった現状が。そこで、僕は専門外ではあるものの、ウクライナに関する概説的な記事を書いて、公開したというわけです。

すぐに記事は話題になり、トピックの硬さを考えると非常に多くの人が読んでくれました。僕はそこで思ったわけです。

これは「世界を世界に説明する」じゃないか、と。

考えてみれば、地域研究や外国文化への知見などは人文学の得意とするところです。本来、ジャーナリズムは「専門性が必要な事柄をわかりやすく説明・解説する」というスキルが必須なはずですが、いまの日本のマスメディアが十分それに成功しているとは言い難いことも理解していました。

そこで、専門性の高いニュースメディアをつくるぞと決意し、限りなく専門知を活用することで「世界を世界に説明する」のを決意したのが、2015年に生まれたマイナースタジオのはじまりでした。

バイラルメディアの興隆

時を同じくして、海外で新しいメディアのフォーマットが生まれてきました。BuzzFeedやBusiness Insider、Upworthyなど、いわゆるバイラルメディアです。こうしたメディアのフォーマットを見よう見まねで取り入れていくうちに、1つの事実に気づきました。

堅いニュースは儲からない。

たしかに、初期のTHE NEW CLASSICの記事はバズったし、方向性としては間違っていないが、これでは一企業として立ち上がるまでにかなりの時間が掛かるし、リスクマネーを入れて、どこかでコケたら終わる構造になる、という感覚が強くなってきました。

また、2015-2016年頃におきたメディアの狂騒は、非常に思うところがありました。バイラルメディアの殆どはFacebook寄生のビジネス・モデルでしたが、「これはFBがアルゴリズムを変えたら一気に終わるんじゃないか」という予測は現実のものとなりましたし、日本でもWelq問題が起きるなど、良くも悪くもメディアが注目を集めた時期でした。

いずれにしても、「世界を世界に説明する」のはエラく大変な道のりだぞ、というのは2015年ころから薄々気づき始めていました。

買収

2015年、マイナースタジオは東証一部のメンバーズに買収されました。その経緯はメディアなどでも取り上げてもらいましたが、周囲からの祝福の言葉とは裏腹に、僕が思っていたことは1つだけでした。

それは、なんか儲かるモデルをつくらないとニュースは出来ないぞということ。

NewYork TimesやNewsPicksなどの成功で、少しずつサブスクリプションが成立することがわかってきましたが、BuzzFeedやVoxなどを見ていても、基本的には企業として利益の出る構造をつくらないかぎり、「世界を世界に説明する」以前の問題だということは、十分にわかっていました。

メンバーズグループへの参加によって、経営に関しての知見は少しずつ増えていったものの、一方で自分が思い描く世界からは未だ遠いことも理解していました。

試行錯誤

その後、現在にかけて試行錯誤は続いていきます。そのなかには大きく失敗したものもあれば、うまくいきそうなものもありましたが、自分自身の根底にあるのは、ひたすら「どうすれば世界に世界を説明する余力のある企業がつくれるか」という1点だけでした。

そして結果的に、僕らはバーティカルにメディアをつくるという戦略をとることになりました。

世界に世界を説明するには、新聞社らのコンテンツを集めるアグリゲーターではなく、自身でコンテンツをつくるパブリッシャーであることが必須です。また、収益化という意味では、広告価値の高い専門メディアになる必要があり、そのなかにCVを呼び込む構造であることも求められます。その答えが、現時点ではバーティカル・メディアだったのです。

実際、2-3年に渡る試行錯誤の結果として、フィットネスの専門メディアであるSienaや、仕事やキャリアアップに関するメディアのJOBSTEP、恋愛や婚活に関するメディアのSARASなどが生まれました。いずれも、まだまだ目指す規模には遠いものの、収益化に成功しはじめています。

ドイツの新聞大手アクセルシュプリンガーが、メディアだけでなく、マーケットプレイス型のサービスに投資しているように、より大きく花開くための収穫逓増型のサービスを生み出す必要はありますが、基盤としては少しずつ整いはじめているイメージです。

今後は

ただし現状の規模では、世界に世界を説明するにはかなり程遠いなあという印象です。

朝日新聞の不動産部門も含む売上が3,894億円、産経新聞が1,191億円なので、いくら紙が苦境にあるといえども、かなりの規模。また海外に目を向けると、BuzzFeedは2017年の目標売上390億円が未達という感じだったので、だいたいそのくらいの規模感。

明治10年くらいから150年続くようなメディアと並ぶには、なかなかの時間が必要だろうなあという感じですが、「世界に世界を説明する」とあれば、そのくらいの規模にはなる必要があります。

2020年までにはニュース部門をつくりたいなあと思っていますが、まずはその体力を十分に有した企業をつくることが当面の目標です。

ということで、自分は思い起こせば大学生くらいからずっと「世界に世界を説明する」というミッションに人生をかけていきたいと思っているので、引き続きその道を歩んでいきたいと思います。

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kenishida

株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO。同社を創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot